ワカメチワワの司法試験ブログ

予備ルートからの合格者のチワワが受験生時代の遺産を残していきます

不真正不作為犯の実行行為性

 不真正不作為犯の実行行為性については,典型論点であるにもかかわらず多くの受験生が当てはめに窮しているところだと思います。

 刑法上の作為義務が存在するかどうかを検討することになりますが,刑法上の作為義務を肯定する場合の基本的な当てはめの流れとしては,以下のようなものになります。

①作為の可能性・容易性の指摘

     ↓

②結果発生に至る因果の流れを支配する地位の存在の指摘

     ↓

③先行行為の存在,特殊な身分関係,保護の引受けといった何らかの事情の指摘

 ①については,作為に出ることがが可能かつ容易な状況でなければ義務を課すことができないわけなので,作為義務を課す大前提として必要な要件です(その意味で,法的作為義務から独立した要件ではありません)。なお,「法益保護の可能性」(例えば被害者を救命できる可能性)と「作為可能性」とは混同しないように気を付けましょう。ここで検討すべきは,あくまでも期待された作為(救急車を呼ぶなど)に出ることができたかどうかです。

 ②については,いわゆる排他的支配と呼ばれてきた要件です。排他的支配とはいっても,文字どおり排他性が認められる必要まではなく,法益侵害の発生が行為者(不作為者)に依存している関係が認められればそれで十分です。たとえば,ナイトプールでAの子供Vが溺れていて,周囲に他の客がいたとします。その客らがVを助けてくれそうにないという状況であれば,Vが溺れ死ぬかどうかはAに依存している関係にありますので,法益侵害に至るまでの因果の流れを支配する地位にあったといえることになります。周囲に人がいることをもって直ちに「排他的支配がない」と切り捨てる人が多いですが,この「排他的支配」の要件はそこまで排他性を要求するものではない点に注意です(最近では「ソフトな排他的支配」なんて呼ばれているようで,可愛いですね)。

 ③については,厳密な言い方ではないでしょうが,いわば「刑法上の作為義務を課すことを正当化する根拠として,法益との間に何らかの特殊な関係を要求するもの」というイメージですね。先行行為や,保護の引受け,親子関係等の身分関係の存在といった何らかの事情があれば基本的にはOKです。とある人の言葉を借りれば,②要件と③要件を併せて「排他的支配+α」などと表現すれば分かりやすいでしょうか。

 

 刑法は,法理論を押さえておくのは大前提として,それを具体的事案との関係で使いこなせなければ全く意味がありません(刑法だけではないですが…)。当てはめにおいていかなる事情を考慮していくべきなのかを常に意識しながら法理論について学習していくようにしてみてください。