ワカメチワワの司法試験ブログ

予備ルートからの合格者のチワワが受験生時代の遺産を残していきます

裁判上の自白の効力

1 裁判上の自白の効力

 裁判上の自白については,裁判所拘束力,証明不要効,撤回禁止効という各効力が生じることは,ほとんどの受験生がおさえているところかと思います。
ところが,自白の撤回の可否が問われた時に,裁判上の自白の効力について答案上でいざ説明しろといわれた時には,少なくない受験生が破滅的答案を作ってしまうのではないでしょうか。
 自白の撤回禁止効について説明するときに,多くの受験生が「禁反言の法理・自己責任から自白の撤回は認められない」と書いてしまう傾向にあるようです。
しかし,平成23年度司法試験の民事訴訟法の採点実感では,次のように述べられています。
 

 「事実の自白の撤回制限効の根拠については,禁反言に言及するだけの答案が多く,中には「禁反言と自己責任である」とするなど,抽象的な用語のみから説明する紋切り型の答案も相当数あり,事実の自白の裁判所に対する効力から丁寧に論じている答案は少なかった。」
 

 この採点実感からも読み取れるように,裁判上の自白の効力について論じる際には,「裁判所に対する効力から丁寧に論じる」ことが重要になります。
 すなわち,裁判上の自白が成立すると,①裁判所は,当事者間に争いのない事実をそのまま判決の基礎としなければならない(第2テーゼ)という拘束力を受けることになります。
 そうすると,裁判所は自白に係る当該事実につきそのまま判決の基礎としなければいけない以上,当該事実につき当事者が立証することは不要となります。そのため,②当該事実について証明不要効(民事訴訟法179条)が生じることになります。
 そして,そのような証明不要効が生じる以上,相手方当事者としても当該事実につき証明することは不要であるとの信頼を抱くことになります。そこで,③このような相手方の信頼を保護するために,自白の撤回は原則として禁じられることになります。
 学説においては第2テーゼから論じることは不要だとかいろんな考え方があったりしますが,ひとまずはこの流れで書いていけば問題ないでしょう。

 

2 撤回が許される場面

 以下の3つの場面において,自白の撤回が許されると解されています。それぞれの根拠を簡単に見てみましょう。

① 相手方の同意がある場合

 不可撤回効の根拠が,不要証に対する相手方の期待を保護する点にあったわけですから,その相手方の同意があるような場合であれば,撤回が認められることになります。

② 刑事上罰すべき他人の行為により自白がなされた場合

 このような場合には再審事由(同338条1項5号)に当たることになります。そうすると,判決確定後において再審が認められてその中で自白の撤回に相当する行為をなし得るのですから,判決確定前に同一訴訟手続内で自白の撤回を認めていくことが紛争の一回的解決に資するところですし,適正手続の観点からも妥当といえます。そのため,当該訴訟手続内において自白の撤回が認められます。

③ 自白が真実に反し,かつそれが錯誤による場合

 これは一番問題が多いところです。なぜこのような場合に撤回が認められるのかは諸説あるところでしょう。実体的真実に基づく裁判がなされるべきという要請からすれば,反真実かつ錯誤の場合には,撤回が認められて然るべきでしょう。他方で,撤回を認めると不要証であると信じた相手方の地位が害されかねません。

 つまるところ,実体的真実の反映要請と相手方の信頼保護との利益衡量から考えていくほかないのですが,訴訟行為の撤回が原則として自由であることからすれば,錯誤要件を課すことにより撤回を認めていくのでしょう。ただし,自白者の錯誤が重過失に基づくような場合には,なお相手方の信頼保護要請が上回ると考えて,撤回を認めないという考え方もあり得るでしょう。

 

 ちなみにですが,裁判上の自白の効力として導かれる撤回禁止効が解除されて撤回できる場面であったとしても,そのような撤回が時機に後れた攻撃防御方法の却下(同157条)の対象となり得る点には注意を要しますので,念のため。