ワカメチワワの司法試験ブログ

予備ルートからの合格者のチワワが受験生時代の遺産を残していきます

会社法361条1項の趣旨

 会社法361条は,取締役の報酬について株主総会決議により決定する旨規定しています。この条文の趣旨について,多くの受験生がおさえている趣旨は不十分なのではないかと思います。
 多くの受験生は,単に「お手盛り防止」とだけおさえているのでしょうが,それのみでは不十分です。例えば,最判平成17年2月15日は,現会社法361条1項の趣旨について,次のように述べています。


 「取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止し,……役員報酬の額の決定を株主の自主的な判断にゆだねるところにあると解される。」


 お手盛り防止についても言及しているのですが,ここで重要なのは,役員報酬の額の決定を株主の自主的判断にゆだねるという点です。

 仮に,お手盛り防止のみを趣旨に挙げてしまうと,総会決議を経ずに取締役の報酬が支払われてしまい,これにつき株主総会による事後承認があったにすぎない場合には,361条1項違反ということになります。すなわち,株主総会決議を経ずに取締役の報酬が決定されて支払われてしまったような場合には,いったん取締役会が自らの報酬を決めてしまった以上は,お手盛りのおそれがその時点で生じてしまっていることになります。そのため,お手盛り防止のみを趣旨に挙げると,既にお手盛り防止を図ることができなかった以上は,事後の総会決議による承認があったとしても,意味がないことになります。
 ところが,上記平成17年最判は,そのような事後承認がある場合には,当該決議の内容に照らして上記規定の趣旨目的を没却するような特段の事情のない限り,報酬の支払は適法有効であるとしています。
 これは,361条1項の趣旨が,究極的には役員報酬の決定について株主の自主的判断にゆだねるという点にあって,取締役会等が自ら報酬を決定させずにお手盛りを防止するというのは株主の自主的判断の尊重という究極目的を達するための手段にすぎないからです。仮にお手盛りの弊害が生じていたとしても,事後承認によって株主の意思がその報酬額に適切に反映されているのであれば,株主の自主的判断は尊重されているのですから,原則として報酬の支払を無効にする必要はないことなのでしょう(逆に,上記最判は,株主の自主的判断を阻害するような特段の事情があるような場合であれば,361条1項違反になる余地を残しています)。

 

 361条1項に関しては,様々な論点があるところですが,株主の自主的判断の尊重という観点から,一度整理しなおしてみるとより理解が深まるかと思います。

遺産分割協議・相続放棄と詐害行為

 少しは受験生の方々のお役に立とうという初心に帰り,詐害行為取消権と相続法との関係についてみてみたいと思います。

 遺産分割協議が詐害行為になるとする判例がある一方,相続放棄が詐害行為とはならないとする判例があります。その違いをしっかりと説明できる方々は,思ったよりも少ないのではないでしょうか?

 AB夫婦がおり,その間に子Cがいたという場合を考えてみましょう。Bは債務超過に陥っており,このままBがAの遺産を取得したとしても,どうせ債権者に持って行かれてしまうので,Aの遺産につき全てCに取得させる旨の遺産分割協議をしたとします。

 この場合,被相続人Aの死亡によって,相続が開始していったん遺産がBCの共有状態になりますね。その後に上記のような遺産分割をした場合には,Bはいったん共有した財産について,遺産分割によってCに譲渡したのと実質的に同じと考えることができるので,Bの財産の減少を観念することができます。そのため,遺産分割協議は詐害行為に当たると考えることができるでしょう。

 これに対して,相続放棄の場合はどうでしょう?仮に,上記の事例でBが相続放棄をしていた場合にも,相続放棄までの間は一度遺産を共有していたことにはなるはずです。ところが,相続放棄には遡及効民法939条)があり,かつ,その遡及効は絶対的なものとされています。遡及効を貫徹する結果として,相続放棄の場合には「いったん遺産の共有状態が生じた」ということもなかったことになり,財産の減少そのものを観念することができませんので,そもそも詐害行為たり得ないことになるのでしょう。

 遺産分割協議にも遡及効(909条本文)がありますが,こちらは第三者保護規定(ただし書)が存在することもあり,その遡及効は一種の法的擬制にすぎないと考えることができます。そうすると,いったん取得した共有持分を遺産分割によって他の相続人に移転させたことを観念でき,相続放棄の場合とは異なる結論を導くことができることになります。

 

 相続放棄も遺産分割協議もともに遡及効がありますが,それぞれの遡及効の性質が全く異なることから結論に差異が生じてくるものと考えられます。一つの説明の仕方に過ぎませんが,ご参考までに。

民事訴訟法5条9号の「不法行為があった地」

 論文試験との関係ではほとんど関係ないと思われますが,不法行為に関する訴えについての管轄のお話です。

 民訴法5条9号によれば,「不法行為に関する訴え」の管轄は,「不法行為があった地」にも認められるとされています。もっとも,ここでいう「不法行為」といえるか否かはどのようにして判断されるべのでしょうか?考え方としてはいくつかに分かれ得るところですが,一つの考え方としては,次のようなものがあります。

 【不法行為の要件(権利侵害行為,損害,因果関係,故意又は過失)についての一応の証明が必要である】

 一見,なるほどと思うかもしれません。しかし,これらの各要件は,本来不法行為に基づく損害賠償請求権の存否という本案レベルで審理判断されるべき事柄です。それにもかかわらず,管轄原因を基礎づける事実の証明に,実体法上の請求原因を基礎づける事実の証明をも要求してしまうことは妥当ではないでしょう。

 同号にいう「不法行為」は,あくまでも管轄原因の有無の判断のための概念なのですから,本案レベルの証明を要求すべきではなく,被告を応訴させるに十分かどうかという見地から考察していくべきでしょう。そのため,被告の行為によって原告の法益に損害が生じたという客観的事実関係の証明さえあれば,それで十分だと考えられます。

 民事訴訟法プロパーの判例というよりも,国際私法と呼ばれる分野の判例として扱われている判例ですが,最判平成13年6月8日民集55巻4号727頁も,民訴法5条9号の不法行為地管轄が肯定されるためには,被告が我が国においてした行為により原告の法益に損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りるとしています(なお,この判例が出された当時は,国際裁判管轄に関する民訴法3条の3第8号がなかったので,民訴法9条5号に照らして判断がなされています)。

 この考え方によれば,不法行為地管轄が認められるためには,故意又は過失のような主観的要件の証明は不要ですし,因果関係も法的評価を離れた事実的因果関係が存在することで足りることになります。

 

 管轄についての解釈論を考えるということはほとんどないと思いますが,考えてみるとなかなか面白い問題です。

 なお,やはり国際私法分野の判例になってしまいますので内容までは紹介しませんが,将来の不法行為に基づく差止請求訴訟の管轄との関係で,最判平成26年4月24日民集68巻4号329頁というものがあります。同最判は,いまだ違法行為や権利侵害結果が発生していない場合に,「不法行為があった地」をいかに判断すべきかについて判断を示してくれています。ご興味があれば一読してみてください。

敷金返還請求権の発生時期【頭の体操】

 敷金返還請求権の発生時期については,民法を学習した受験生であれば誰でもおさえているところではないでしょうか。

 最判昭和48年2月2日は,目的物の明渡し時に発生すると解しており,受験生の多くもこの見解で理解しているはずです。この,誰でも理解している論点で,頭の体操をしてみましょう。

 次のような事案だったら,敷金返還請求権はいつ発生するでしょうか?

 

Aは,Bの所有する甲建物を,Bに無断でCに賃貸し,その際,Cは,Aに敷金を差し入れた。ところが,Bは,甲建物にCが居住していることを知ったため,Cに対して甲建物の明渡しを求めて訴訟を提起した。

 

 このような事案で敷金返還請求権の発生時期について問われたら,おそらくほとんどの受験生は,敷金返還請求権の発生時期について,明渡し時説を展開していくのではないでしょうか。しかし,敷金返還請求権が明渡し時に発生するとされた根拠に遡って改めて考えてみてもらいたいところです。

 「家屋賃貸借における敷金は、賃貸借存続中の賃料債権のみならず、賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当損害金の債権その他賃貸借契約により賃貸人が貸借人に対して取得することのあるべき一切の債権を担保し、賃貸借終了後、家屋明渡がなされた時において、それまでに生じた右の一切の被担保債権を控除しなお残額があることを条件として、その残額につき敷金返還請求権が発生するものと解すべき」である。

 ここでいう,賃貸借契約終了後明渡義務履行までに生ずる賃料相当損害金の債権というのは,目的物の所有権を侵害したことを理由として生じる不法行為に基づく損害賠償請求権等を意味するものです。

 ところが,上記事例は他人物売買の事案です。他人物売買の場合,他人物賃貸人は,明渡しが未了であったとしても,そもそも目的物の所有権を有していないのですから,契約終了後に何らかの損害を被るということはあり得ません(ただし,所有者と他人物賃貸人との間に何らかの特殊な契約等があった場合には別かもしれませんが,あくまで典型的な他人物賃貸借で考えてみます)。そうすると,上記事例においては,賃貸借終了後から明渡しまでの間に敷金によって担保されるべき債権は存在しない以上,明渡し時ではなく,賃貸借契約の終了時に敷金が発生すると解すべきです。仮に上記事案で明渡し説に立ってしまうと,(CはBに建物を明け渡すべきなのに)CがAに甲建物を明け渡さないと敷金返還請求権が発生しないと考えることにもなりかねず,結論としても妥当ではありません。

 ですので,遅くともBによる明渡請求がなされた時点で賃貸借契約が終了(AのCに対する債務が履行不能となりますね。)し,その時点で敷金返還請求権が発生すると考えることになるでしょう。

 

 見知った論点でも,事案を変えると準備していた論証を使えないということはよくありますので,論証を用いる際には,典型事案と当該事案との違いを見比べて,その理由付けが当該事案にも妥当するのかという点を常に意識しておきたいところですね。

不真正不作為犯の実行行為性

 不真正不作為犯の実行行為性については,典型論点であるにもかかわらず多くの受験生が当てはめに窮しているところだと思います。

 刑法上の作為義務が存在するかどうかを検討することになりますが,刑法上の作為義務を肯定する場合の基本的な当てはめの流れとしては,以下のようなものになります。

①作為の可能性・容易性の指摘

     ↓

②結果発生に至る因果の流れを支配する地位の存在の指摘

     ↓

③先行行為の存在,特殊な身分関係,保護の引受けといった何らかの事情の指摘

 ①については,作為に出ることがが可能かつ容易な状況でなければ義務を課すことができないわけなので,作為義務を課す大前提として必要な要件です(その意味で,法的作為義務から独立した要件ではありません)。なお,「法益保護の可能性」(例えば被害者を救命できる可能性)と「作為可能性」とは混同しないように気を付けましょう。ここで検討すべきは,あくまでも期待された作為(救急車を呼ぶなど)に出ることができたかどうかです。

 ②については,いわゆる排他的支配と呼ばれてきた要件です。排他的支配とはいっても,文字どおり排他性が認められる必要まではなく,法益侵害の発生が行為者(不作為者)に依存している関係が認められればそれで十分です。たとえば,ナイトプールでAの子供Vが溺れていて,周囲に他の客がいたとします。その客らがVを助けてくれそうにないという状況であれば,Vが溺れ死ぬかどうかはAに依存している関係にありますので,法益侵害に至るまでの因果の流れを支配する地位にあったといえることになります。周囲に人がいることをもって直ちに「排他的支配がない」と切り捨てる人が多いですが,この「排他的支配」の要件はそこまで排他性を要求するものではない点に注意です(最近では「ソフトな排他的支配」なんて呼ばれているようで,可愛いですね)。

 ③については,厳密な言い方ではないでしょうが,いわば「刑法上の作為義務を課すことを正当化する根拠として,法益との間に何らかの特殊な関係を要求するもの」というイメージですね。先行行為や,保護の引受け,親子関係等の身分関係の存在といった何らかの事情があれば基本的にはOKです。とある人の言葉を借りれば,②要件と③要件を併せて「排他的支配+α」などと表現すれば分かりやすいでしょうか。

 

 刑法は,法理論を押さえておくのは大前提として,それを具体的事案との関係で使いこなせなければ全く意味がありません(刑法だけではないですが…)。当てはめにおいていかなる事情を考慮していくべきなのかを常に意識しながら法理論について学習していくようにしてみてください。

民事訴訟における相殺の抗弁

 相殺の抗弁についての判断については,理由中の判断であったとしても既判力が生じるとされている(114条2項)ことから,様々な場面で特殊な扱いを受けることがあるのは皆さんご承知のとおりだと思います。私自身は,訴訟において相殺の抗弁を主張したことは一度しかありませんが,司法試験等では頻繁に出てくる重要な抗弁の一つですね。今回は,その相殺の抗弁についてダラダラと書き連ねていきます。

 1 相殺の再抗弁の適法性

 相殺の抗弁に対する「相殺の再抗弁」は認められないというのが判例だとされていますが,この押さえ方では不十分です。

 最判平成10年4月30日は,①訴訟外において既に相殺の意思表示がなされていた場合と,②訴訟上で相殺の抗弁に対する再抗弁として相殺の意思表示がなされた場合に区別して判断しています。

 受験生時代に私の周りの受験生が用いていた理由付けは,「相殺の抗弁に対して相殺の再抗弁が提出されると,仮定の上に仮定が積み重ねられてしまい,当事者間の権利関係の不安定を招き,審理も複雑化してしまう」というものでした。その理由づけ自体は,平成10年最判も述べているところなのですが,この理由付けは訴訟外において既に相殺の意思表示がなされていた場合には妥当しません

 訴訟外において相殺の意思表示がなされていた場合には,既に相殺の実体法上の効力が確定的に生じているのであって,これを相殺の抗弁に対する再抗弁として主張したとしても,仮定の上に仮定が積み重なることにはなりません。言ってみれば,訴訟外における相殺の意思表示を「相殺の再抗弁」として主張するということは,被告が相殺の抗弁に供した自働債権について「弁済の再抗弁」を主張することと何ら変わりがないのです。

 そのため,訴訟外で相殺の意思表示がなされたという場合であれば,相殺の再抗弁も許されることになります。

 2 相殺の抗弁に対する判断に既判力が生じない場面

 これは私自身も根拠となる文献は見つけられていない問題なので,設例を用いてみなさんに問題提起させていただき,私見を述べるにとどめます。

 設例

 Xを売主,Yを買主とする売買契約が締結されたが,Yが一向に売買代金を支払わないので,XがYに対して解除に基づく原状回復請求として目的物返還請求訴訟を提起したという場面を考えてみましょう。
 この訴訟において,Yは,売買代金債権を受働債権,YのXに対する債権を自働債権として相殺の抗弁を主張した結果,これが認められて売買代金債権全額が消滅するとします。
 このときに,相殺の抗弁についての判断に既判力は生じるのでしょうか。

  相殺の抗弁に関する判断について既判力が生じるとされているのは,仮にこれに既判力が生じないとすると,自働債権に供された債権に関する再度の訴訟を通じて判決主文における既判力ある判断が蒸し返されてしまいかねないからです。

 ところが,上記設例との関係においては,そもそも訴訟物たる権利(=解除に基づく原状回復請求権)を受働債権として相殺の抗弁を提出しているわけではなく,本来理由中の判断にとどめられるにすぎないXのYに対する売買代金債権を受働債権とする相殺の抗弁です。この場合に仮に相殺の抗弁についての判断に既判力を認めてしまうと,今度は理由中の判断に過ぎないはずの売買代金債権の存否について既判力を生じさせないと,売買代金債権に関する再度の訴訟提起を通じて既判力ある判断が蒸し返されてしまうことになります。

 ですので,相殺の抗弁の判断について既判力が生じるのは,あくまでも訴訟物たる権利を受働債権とする相殺の抗弁(及び1で述べた相殺の抗弁に対する訴訟外相殺の再抗弁)に限定され,既判力の生じない理由中判断の部分に登場するにすぎない債権との相殺の主張には既判力が生じないことになるのでしょうね。

強制わいせつ罪と故意以外の主観的事情

最大判平成29年11月29日は,最判昭和45年1月29日を変更し,強制わいせつ罪の成立要件として故意以外の行為者の性的意図を一律に成立要件とすべきではないと判断しました。以下,判旨と雑感を連ねていきます。

1 判旨

「刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。」

このような判旨を導く理由付けとして,以下の理由を挙げています。
「刑法176条にいうわいせつな行為と評価されるべき行為の中には,強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため,直ちにわいせつな行為と評価できる行為がある一方,行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。…(中略)…そして,いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。」

 

2 雑感

さて,この判旨からすると,強制わいせつ罪の成立には,行為者の行為が性的性質を有するものであることは必要になります。強制わいせつ罪の実行行為性という点で,当然の内容です。そして,行為そのものの性的性質が明確であるような場合には,実行行為性を肯定するに当たり,当該行為が行われた際の具体的状況を踏まえることは不要となります。平成29年最判も,当てはめにおいて,「当該行為そのものが持つ性的性質が明確な行為であるから,その他の事情を考慮するまでもなく,性的な意味の強い行為として,客観的にわいせつな行為であることが明らかであり」強制わいせつ罪が成立するとしています。
他方,行為そのものの性的性質が明確ではない場合には,行為者の主観をも踏まえた行為当時の具体的事情を考慮し,当該行為が性的意味を有するかを評価することを通じて,強制わいせつ罪の実行行為性が認められるかを判断する必要があるのでしょう。
例えば,スリをするために女性のズボンのポケットに財布が入っているかを確かめるためにおしりを触る行為などは,被害者側としては性的な被害感情を有することはあるかもしれませんが,行為の具体的状況から当該行為が性的性質を有しないと判断される場合には,なお強制わいせつ罪(ないし条例違反)は成立しないようにも思われます。行為者の性的意図が全く認定できず,例えば老若男女問わず無差別にお尻部分のポケットを触る行為をその場で何度も繰り返していたような具体的事情があるのであれば,具体的状況から当該行為が性的性質を有しないと判断されることもあり得るでしょう。
また,女性の裸体写真を撮って仕返しをする目的であったという昭和45年最判の事案についても,写真を撮るという行為それ自体が当然に性的意味を有するものとはいえず,行為者の主観的事情を含めた行為当時の具体的状況をも考慮して,性的性質を有しない行為であったとして強制わいせつ罪の成立を否定した結論それ自体は正当化することも可能ではあるかもしれませんね。

 

一応の判断基準としては次のようなものとなるのでしょう。
①当該行為そのものが持つ性的性質が明確な行為については,具体的事情を考慮することなく,客観的にわいせつな行為であるとして,強制わいせつ罪の実行行為性が肯定される。行為者が一切性的意図を有していなかったとしても,同罪の成立が否定されることはない。
②当該行為の持つ性的性質が不明確な行為については,当該行為の有し得る性的性質の有無・程度のみならず,行為者の性的意図をも踏まえた行為当時の具体的状況等の諸般の事情を考慮して,当該行為がもつ性的意味合いの強さを判断して,強制わいせつ罪の実行行為といえるかを検討していくべきことになる。

 

あまりにもざっくりした雑感ですが,判例速報的な感じでした。間違ってたら後から補足します。