ワカメチワワの司法試験ブログ

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民事訴訟法5条9号の「不法行為があった地」

 論文試験との関係ではほとんど関係ないと思われますが,不法行為に関する訴えについての管轄のお話です。

 民訴法5条9号によれば,「不法行為に関する訴え」の管轄は,「不法行為があった地」にも認められるとされています。もっとも,ここでいう「不法行為」といえるか否かはどのようにして判断されるべのでしょうか?考え方としてはいくつかに分かれ得るところですが,一つの考え方としては,次のようなものがあります。

 【不法行為の要件(権利侵害行為,損害,因果関係,故意又は過失)についての一応の証明が必要である】

 一見,なるほどと思うかもしれません。しかし,これらの各要件は,本来不法行為に基づく損害賠償請求権の存否という本案レベルで審理判断されるべき事柄です。それにもかかわらず,管轄原因を基礎づける事実の証明に,実体法上の請求原因を基礎づける事実の証明をも要求してしまうことは妥当ではないでしょう。

 同号にいう「不法行為」は,あくまでも管轄原因の有無の判断のための概念なのですから,本案レベルの証明を要求すべきではなく,被告を応訴させるに十分かどうかという見地から考察していくべきでしょう。そのため,被告の行為によって原告の法益に損害が生じたという客観的事実関係の証明さえあれば,それで十分だと考えられます。

 民事訴訟法プロパーの判例というよりも,国際私法と呼ばれる分野の判例として扱われている判例ですが,最判平成13年6月8日民集55巻4号727頁も,民訴法5条9号の不法行為地管轄が肯定されるためには,被告が我が国においてした行為により原告の法益に損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りるとしています(なお,この判例が出された当時は,国際裁判管轄に関する民訴法3条の3第8号がなかったので,民訴法9条5号に照らして判断がなされています)。

 この考え方によれば,不法行為地管轄が認められるためには,故意又は過失のような主観的要件の証明は不要ですし,因果関係も法的評価を離れた事実的因果関係が存在することで足りることになります。

 

 管轄についての解釈論を考えるということはほとんどないと思いますが,考えてみるとなかなか面白い問題です。

 なお,やはり国際私法分野の判例になってしまいますので内容までは紹介しませんが,将来の不法行為に基づく差止請求訴訟の管轄との関係で,最判平成26年4月24日民集68巻4号329頁というものがあります。同最判は,いまだ違法行為や権利侵害結果が発生していない場合に,「不法行為があった地」をいかに判断すべきかについて判断を示してくれています。ご興味があれば一読してみてください。