ワカメチワワの司法試験ブログ

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賃料不払を理由とする賃貸借契約の解除

賃貸借契約において,賃料債務について不払がある場合であっても,信頼関係が破壊されていないような場合には,賃貸人は当然には賃貸借契約を解除することができないとされています(信頼関係破壊の法理)。これは,賃貸借契約が,当事者間の信頼関係を基礎として成り立つ継続的契約であり,単純な売買契約等とは別個の考慮が必要であるからと説明されているかと思います。

さて,このような信頼関係破壊の法理ですが,平成29年の民法改正の前後を通じて,整理が変わるのではないかと考えています。

 

1 平成29年改正前民法

賃料不払を理由とする賃貸借契約の債務不履行解除をする場合,以下のように整理されてきました。

⑴ 催告解除

当該賃料の不払いについて背信性がない場合には,解除権は発生しない(賃借人側に信頼関係不破壊についての主張立証責任あり)

⑵ 無催告解除

当該賃料の不払いについて賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りる特段の事情がある場合には,解除権が発生する(賃貸人側に信頼関係破壊についての主張立証責任あり)

2 平成29年改正後民法

改正民法では,解除については,催告解除(541条)と無催告解除(542条)とに整理し直されました。以下,両者に分けて見てみます。

⑴ 催告解除(541条)

催告解除については,「その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は,解除権は発生しないとされています(541条ただし書)。 この規定は,「契約……に照らして」軽微かどうかを判断していくので,当然,賃貸借契約の特殊性をも考慮して債務不履行の軽微性を判断していくことになるはずです。

そうすると,賃料の不払いについて,賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には,当該債務不履行が契約に照らして軽微であるとして,解除権が例外的に発生しないことになるのではないかと考えられます。

そのため,改正民法においては,催告解除の場合における信頼関係破壊の問題は,541条ただし書に位置付けて考えることになると思われます。ただし書により主張立証責任が転換されていますので,従前どおり,賃借人側が債務不履行の軽微性=信頼関係不破壊について主張立証する必要があるでしょう。

⑵ 無催告解除(542条)

542条においては,債務の全部の履行不能の場合(1項1号)をはじめ,無催告で解除できる場面が,1号から5号まで列挙されています。

このうち,5号は,「前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき」にも,無催告解除することができると定められています。この5号は,信頼関係破壊の法理の現れでもあると考えられているところです。

賃貸借契約において長期間の賃料不払いが継続した場合,信頼関係が破壊された結果,催告をしてももはや契約目的を達するのに足りる賃料債務の履行がされる見込みがないことが明らかであるといえるでしょうから,5号の要件を満たすことになると考えられます。

そのため,無催告解除の場合の信頼関係破壊の有無は,542条1項5号の問題として位置づけられることになるのでしょう。主張立証責任についても,従来どおり,賃貸人側で信頼関係の破壊について立証すべきことになります。

 

このように,賃料不払を理由とする賃貸借契約の解除をする場合において,信頼関係の破壊が必要であるという結論と信頼関係破壊(不破壊)に係る主張立証責任の所在については変わりがなさそうですが,条文上の要件に明確に位置付けて整理することができるようになったという点において,より議論が明確化されたように思いますね。