ワカメチワワの司法試験ブログ

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改正民法567条2項の意義

1 総論

改正民法567条は,売買の目的物についての危険の移転について規定しています。

1項は,特定された目的物の引渡し後に,当事者双方の責めに帰することができない事由により滅失・損傷したときは,買主の履行追完請求,代金減額請求,損害賠償請求及び解除の主張は認めず,買主の代金支払債務の履行拒絶も認められないとする規定です。

2項は,引渡債権者の受領遅滞後に当事者双方の責めに帰することができない事由により目的物が滅失・損傷したときも,債権者(買主)の履行追完請求,代金減額請求,損害賠償請求及び解除の主張を否定するとともに,買主の代金支払債務の履行拒絶権を否定するという規定です。

今回は,567条2項の意義について考えてみたいと思います。

 

2 受領遅滞と履行不能

債権者が受領遅滞に陥った場合において,当事者双方の責めに帰することができない事由により債務の履行が不能となったときは,その履行不能は,債権者の帰責性によるものとみなされます(413条の2第2項)。

そして,567条2項は,受領遅滞後に当事者双方の責めに帰することができない事由により目的物が滅失・損傷した場合の規定ですが,この場合には買主の帰責性による不能であると擬制される(413条の2第2項)のですから,「当事者双方の責めに帰することができない事由によって」(567条2項)と規定するのには少し違和感があります(413条の2第2項により,買主の帰責性に基づく履行不能とみなされているはずですので)。しかし,現に上記の文言で567条2項が規定されてしまっている以上は,413条の2第2項とは一応は独立した規定ということになるのでしょう。

 

3 567条2項の存在意義

567条2項の適用場面は,413条の2第2項の適用もできる場面でもあるでしょうから,次のようなことが言えます。

  • 413条の2第2項により目的物の損傷等は買主の帰責性と擬制される
  • その結果,買主は,解除権の行使はできない(543条)
  • 同様に,債務不履行に基づく損害賠償請求権の行使もできない(415条1項ただし書)
  • さらに,買主は,反対給付である代金支払債務の履行を拒絶することもできない(536条2項前段)
  • 目的物の損傷等により契約不適合が生じたといえるものの,追完請求権の行使は否定され(562条2項),代金減額請求権の行使も否定される(563条3項)

そうすると,567条2項から導かれる効果は,413条の2第2項を介した他の条文で解決できてしまうので,567条2項の存在意義はないことになりそうです…。

 

あえて567条2項に存在意義を持たせるのであれば,次のよう説明をすることになるのでしょう。

買主の追完請求権(562条)や代金減額請求権(563条)は,「引き渡された目的物」(562条1項)についての規定であることから,引渡し前の目的物に関する損傷等について規定しているわけではありません

そうすると,目的物の引渡し前の段階においても,567条2項によって買主の追完請求権や代金減額請求権の行使を封じることができることになります。

このように,567条2項は,目的物の引渡し前の段階の追完請求・代金減額請求の否定という効果を導くことができるという点にのみ,存在意義があることになりそうです。

 

4 独り言

ここからは独り言なのですが,上記のように567条2項に意味を持たせるとなると,わざわざこの条文を設けないと目的物引渡し前の追完請求・代金減額請求を否定できないということになり,目的物の引渡し前であっても追完請求権や代金減額請求権が認められるのが前提となっているとも考えられます。

そうだとすれば,562条1項が「引き渡された目的物」について追完請求権を規定し,563条もこれを受けて(「前条第1項本文に規定する場合において」)代金減額請求権を規定しているものの,結局は562条1項の「引き渡された」という文言は空文化するのではないかとも思えてしまいますね・・・。

 

【参考文献】

潮見佳男『法律学の森 新債権総論Ⅱ』63頁(信山社2018