ワカメチワワの司法試験ブログ

予備ルートからの合格者のチワワが受験生時代の遺産を残していきます

民法94条2項の類推適用

少し気になったので,久々の更新です・・・。

94条2項類推適用について論じる際に,多くの受験生が①虚偽の外観,②真の権利者の帰責性,③第三者の信頼という規範を立てるかと思います。

その際に,③第三者の信頼要件について,「意思外形非対応型の場合には,本人の帰責性の程度が小さいから,110条も類推し,善意・無過失を要求すべきである」などと書く答案が多く見受けられた記憶があります。

 

しかし,そもそも論として,94条2項単体での類推適用と94条2項・110条の類推適用とは別の話ですので,切り分けて考える必要があります。

 

94条2項類推の場合,真の権利者の帰責性の程度としては,

  • 真の権利者自らが虚偽の外観を作出したこと
  • 他者の作出した虚偽の外観をあえて放置するなどして承認したこと

が必要となります。

ここで注意を要するのは,これらの場合と同視し得るほどの重大な帰責性が認められるに過ぎない場合は,94条2項単体での類推適用をする際の帰責性の程度としては不十分だということです。

最判平成18年2月23日民集60巻2号546頁は,

「Aが本件不動産の登記済証,上告人の印鑑登録証明書及び上告人を申請者とする登記申請書を用いて本件登記手続をすることができたのは,上記のような上告人の余りにも不注意な行為によるものであり,Aによって虚偽の外観(不実の登記)が作出されたことについての上告人の帰責性の程度は,自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきである。そして,前記確定事実によれば,被上告人は,Aが所有者であるとの外観を信じ,また,そのように信ずることについて過失がなかったというのであるから,民法94条2項,110条の類推適用により,上告人は,Aが本件不動産の所有権を取得していないことを被上告人に対し主張することができないものと解するのが相当である。」

と述べており,あくまでも94条2項と110条の併用による類推適用を前提とした判断の中で,前二者の場合と「同視し得るほど重い」帰責性について言及しています。

 

94条2項は,「前項の規定による意思表示の無効」を第三者に対抗できないと規定しており,「相手方と通じてした虚偽の意思表示」の存在を前提としています。

そうすると,同条項を類推適用する場合には,真の権利者自ら虚偽の意思表示をした場合と同等の場合でなければならないはずで,虚偽の外観に真の権利者の意思が現れていること(虚偽の外観が真の権利者の意思に基づいていること)が必要となります。

そして,虚偽の外観に真の権利者の意思が現れているのはどのような場合かというと,いわゆる意思外形対応型として整理される「自ら外観の作出に積極的に関与した場合」「これを知りながらあえて放置した場合(事後的な承認を与えた場合)」ということになります。これらと「同視し得るほどの重大な帰責性」があるに過ぎない場合には,真の権利者の意思が虚偽の外観に現れているとは言い難く,94条2項単体での類推適用はできないことになります。

 

意思外形非対応型の事案について受験生が答案として書いていくなら,

  1. まずは94条2項単体での類推適用を試みて,これを否定した上で,
  2. 94条2項のみならず,110条との構造の類似性(権限逸脱行為の介在等)をも指摘し,
  3. 両者併用による類推適用により,善意無過失の第三者が保護され得ることを論じていく

ことになるでしょう。

その際の帰責性の程度としては,(少なくともこれまでの判例に現れた事案からすれば)⑴自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性や,⑵第三者の信頼した虚偽の外観の原因となった偽りの外形が本人の意思に基づいている場合であることが必要とされることになります。