ワカメチワワの司法試験ブログ

予備ルートからの合格者のチワワが受験生時代の遺産を残していきます

会社法423条1項に基づく損害賠償請求権の譲渡

 ここ最近なんだか会社法だらけになってしまっている気がしますが,例によって考えてみましょう。

 

 A社の取締役であるYの任務懈怠責任を追及するために,A社の株主Xが株主代表訴訟を提起しようとしているとします。この状況下において,A社は,A社がYに対して有する損害賠償請求権を他に譲渡することができるでしょうか?

 

 まずは,原則論を積み上げていく姿勢が重要です。民法上債権の譲渡は自由なのですから(民法466条参照),損害賠償請求権を譲渡することはできるのが原則ですよね。そして,会社法上も,かかる債権譲渡について特段規制しているわけではありませんから,A社による債権譲渡は原則として問題がないとも思われます。
 ところが,常にこの原則を常に貫くとどうでしょうか。例えば,A社が,Yと親しい者にYに対する損害賠償請求権を譲渡するとなると,当該請求権は結局行使されないことになってしまうことにもなりかねず,実質的に取締役Yの責任を免除したのと同様の結果がもたらされかねません。このような結論を認めることは,会社法が役員等の責任の免除について厳格な規制(会社法425条ないし同427条)を設けている趣旨を没却することにもなるでしょう。
 そこで,取締役に対する責任追及を回避する目的で損害賠償請求権を譲渡するような場合には,当該債権譲渡は会社法425条ないし427条の法意から無効と解すべきでしょう。東京地判平成17年5月12日金法1757号46頁も同趣旨の判示をしており,さらには代表訴訟の提起が予定されているにもかかわらず損害賠償請求権を譲渡したような場合には,特段の事情のない限りは上記目的が推認されるとしています。

 

 責任の免除関係の話については,(特に論文試験との関係においては)おざなりになりがちですが,このような重要な裁判例もあるところですので,今一度確認してみると良いと思います。