ワカメチワワの司法試験ブログ

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司法試験平成25年度第1問(民法)設問3

今回は,司法試験の平成25年度民法設問3についてです(改正民法は特に関係ありません)。

1 事案の概要

設問3は,物上代位と相殺に関する問題について,最判平成13年3月13民集55巻2号363頁(以下,「平成13最判」といいます。)の射程を問うものでした。

本設問の事実関係は,概ね以下のような時系列をたどっています。

  • Bが,Dから融資を受け,Dに対する貸金債務を担保するためにB所有の丙建物に抵当権を設定・登記
  • Bが,Gに対し,丙建物の2階部分を賃貸・引渡し
  • 台風により丙建物の2階部分が損傷し,かつ,Bの所在が不明であったため,Gが30万円を支出して丙建物の2階部分を修繕
  • 抵当権者Dは,物上代位権民法372条・同304条1項。以下法令名略。)を行使して,弁済期到来済のBのGに対する賃料債権を差押え(差押命令送達済)
以上のような事実関係の下,D及びGは,以下のような主張・反論をしています。
【Gの主張】
Dによる抵当権に基づく物上代位権の行使としてなされた賃料90万円の請求に対し,Gは,丙建物の修繕費用30万円を差し引いた60万円についてのみ支払う(相殺の主張)
【Dの反論】
平成13最判に従えば,賃料債権との相殺はできない
本設問では,Dからの反論を踏まえた上で,Gがどのような主張をしたらよいかが問われています。

2 平成13最判の内容

本設問では,判旨のみならず,事案の概要まで示されています。そのため,事実関係の相違に基づいて判例の射程外であるとの主張を組み立てることも求められているといえるでしょう。ただ,今回は,その点には立ち入らずに,専ら判旨との関係で射程を考えてみたいと思います。

平成13最判の判旨は,以下のとおりです。

「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権者に対抗することはできないと解するのが相当である。けだし,物上代位権の行使としての差押えのされる前においては,賃借人のする相殺は何ら制限されるものではないが,上記の差押えがされた後においては,抵当権の効力が物上代位の目的となった賃料債権にも及ぶところ,物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから,抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理由はないというべきであるからである。」

3 本設問における判例法理の適用の有無

⑴ 形式的な当てはめ

まず,平成13最判が定立している命題は,「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権者に対抗することはできない」というものです。

本設問では,賃借物である丙建物について修繕費用を支出したGは,賃貸人Bに対し,必要費償還請求権(608条1項)を取得しているということができます。この必要費償還請求権は,Dを抵当権者とする抵当権設定登記の後に取得した債権ですから,形式的には平成13最判の射程が及ぶようにも思えます。

⑵ 命題を導く理由との関係

もっとも,平成13最判は,理由として,「上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから,抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理由はない」ということを述べています。本設問の事案についてこの理由が妥当しないといえるならば,平成13最判の射程外といえる余地がでてきます。

すなわち,平成13最判の射程外であると主張したいGとしては,登記による公示の存在を前提としたとしても,抵当権設定登記後に賃貸人Bに対して取得した必要費償還請求権と,物上代位の目的となった丙建物の賃料債権とを相殺することに対するGの期待が,抵当権の効力に優先する理由を主張すべきこととなります。

⑶ 平成13最判の射程外であるとの主張

例えば,試験の現場では,以下のような点を述べることで,判例の射程外であるとの説明を加えていくことになろうかと思います。

賃借物の修繕に必要な費用は,目的物の使用収益をするために不可欠なものなので,抵当権設定登記の存在を認識したとしても賃借人において支出を余儀なくされるものである。そして,修繕費用は,本来は賃貸人の負担に帰するべき費用である(6061項本文)から,これを賃貸人の負担に帰するために,賃料債権との相殺をすることに対する期待が高いといえる。

他方,抵当権者としても,賃貸人が修繕費用を支出していた場合には相殺を認めた場合に近い経済的状況となる上,修繕により抵当不動産の価値が維持・回復される点で抵当権者にも利益でもあるから,相殺を認めることに対する抵当権者の不利益は小さい。

そのため,物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待が,抵当権の効力に優先するというべきであり,平成13年最判の射程は及ばない。

 

ただ,(出題趣旨や採点実感では触れられていませんが,)以下に述べるとおり,先取特権との関係まで意識して論じることもできるのではないかと考えています(別に試験で書く必要はないと思いますが)。

賃借人が賃貸不動産の修繕費用を支出した場合,それは「不動産の保存のために要した費用」(326条)に該当しますから,当該不動産を目的とする不動産保存の先取特権が成立します。そして,この不動産保存の先取特権については,「保存行為が完了した後直ちに登記」(337条)をすることで,「抵当権に先立って行使することができる」ことになります(339条)。これは,抵当権設定登記との前後を問わずに,不動産保存の先取特権が優先するということです。

そして,先取特権の効力の1つとして物上代位権(3041項)が存在することから,目的不動産の賃料債権を対象として先取特権に基づく物上代位権を行使することができます(「目的物の……賃貸……によって債務者が受けるべき金銭」)。

そうだとすれば,本設問のGは,丙建物の修繕費用という「不動産の保存のために要した費用」(326条)を支出しているわけですから,丙建物について,必要費償還請求権を被担保債権とする不動産保存の先取特権を取得することになります。そして,Gは,これについて直ちに登記(337条)をすることで,丙建物の抵当権者Dに優先して,先取特権の効力としての物上代位権に基づき賃料債権を行使できる立場にあったといえます(339条)。賃料債権の債務者と先取特権者とが同一のGではありますが,このような場合でも通常の場合と別異に解する理由はないでしょう。

ところが,Gは,自己に対する賃料債務を目的としてわざわざ先取特権に基づく物上代位権を行使するでしょうか?(第三債務者と債権者が一致する場合の執行の可否はまた問題となりそうですが…)仮にそのような事態になったとして,Bに支払うべき賃料30万円を自らに支払うという処理になりますから,結局は相殺することになってしまいます。そうだとすれば,Gとしては,登記費用等のかかる先取特権を行使するのではなく,それと全く同様の帰結をもたらす(物上代位権行使を介在させない)単純な相殺処理によると考えるのが合理的でしょう

 

つまりはこういうことです。本来,Gは先取特権に基づく物上代位権を行使すれば抵当権者Dに優先する立場にあります。ただ,上代位権の行使をしたとしても,結局は,必要費償還請求権と賃料債務とを相殺する結果になるため,Gは(物上代位権を行使しないでする)簡易な相殺処理を選択することになります。そうだとすれば,物上代位権の行使の結果する相殺の場合と簡易な相殺処理の場合とで差を設ける必要はないでしょうから,簡易な相殺処理の場合も抵当権者に優先すると期待するのが合理的なのではないかと思います。したがって,抵当権に基づく物上代位の目的となった賃料債権と必要費償還請求権とを相殺することに対する賃借人Gの期待が,Dの抵当権の効力に優先するから,Gによる相殺の主張は認められると主張することになるだろうと。

 

このように,Gの先取特権の存在をも考慮することで,判例の射程外であるという結論を正当化することができるのではないでしょうか。私がG側の代理人であれば,このような主張を組み立ててみたいなというところです。

司法試験平成25年度第1問(民法)設問1

1 事案の概要

司法試験の平成25年度民法の設問1は,保証債務履行請求について問われた問題で,その請求原因を丁寧に検討していくべき問題でした。出題当時においては,主に「書面」(446条2項)の要件を特に丁寧に検討することが求められていました。

もっとも,令和2年4月1日施行の改正民法の下では,他にも論じるべきことがあります。

 事案を簡単に振り返ってみると,

  • AB間で甲土地を目的とする売買契約が締結されるとともに
  • Cを保証人,AB間の売買契約に基づく代金支払債務を主債務とする保証契約を,主債務者BがCを代理して契約を締結し(Cからの代理権の授与なし)
  • その後,Cが,Bの行った保証契約を追認する

という事案でした。

 2 利益相反行為の検討

この場合,代理人Bにとっては人的担保を得られる利益があるのに対し,本人Cは保証債務を負担することになる点で,「代理人と本人との利益が相反する行為」(108条2項本文)に当たることとなります。そのため,Bの行為は,原則として無権代理とみなされることになります。

*なお,「利益が相反する行為」に当たるかどうかについては,826条1項の場合と同様に,行為の外形から客観的に判断されることとなると考えられます。

もっとも,Cは事後的に追認していることから,利益相反行為の点の瑕疵についても追認により治癒されるのではないかが問題となります。ここでは,108条2項ただし書が,「本人があらかじめ許諾した行為」については無権代理とはみなさない旨規定しているため,同項は事後の追認を許さない趣旨なのではないかが問題となります。

 この点については,以下の2点から,追認は可能であると考えることができるでしょう。

  • 108条2項は,その効果として「代理権を有しないものがした行為とみなす」と規定しているのに対し,113条1項は「代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約」の存在すなわち無権代理であることを前提としており,両者が問題となるレベルは異なる。
  • 108条2項の趣旨は本人の利益保護の点にあるのであって,本人が事後的に追認をすることでその効果を欲することを禁じる理由はない。

 

追認の可否という点を論じるかどうかは措くとしても,改正後の民法の下では,本問において108条2項本文の適用があることについても,しっかりと言及をしていく必要があるものと考えられます。

抵当権に基づく妨害排除請求

【設例】

Aは,Bに対して5000万円を融資するにあたり,Bの所有する甲土地について抵当権の設定を受け,その旨の抵当権設定登記手続を完了した。甲土地上には,抵当権設定時から,石灯籠(甲土地の従物に当たるもの)が設置されていた。

その後,Bは,その石灯籠をCに対して売却し,引き渡した。

この事例において,抵当権者Aは,Cに対し,石灯籠を甲土地上に返還するよう求めることができるか。

1 請求の根拠

抵当権者Aは,抵当権に基づく妨害排除請求として,土地上への石灯籠の返還請求をすることになります。抵当権は非占有担保であって,占有を観念することができない権利ですので,返還請求ではない点に注意が必要です。

 

2 請求原因

上記のような請求が認められるためには,①抵当権の存在,②抵当権に対する妨害が必要となります。

① 抵当権の存在

具体的には,①については,Aが甲土地の抵当権者であって,かつ,石灯籠について抵当権の効力が及んでいたことを主張・立証していくことになります。なお,抵当権の効力が及ぶ「付加して一体となっている物」(370条)には,経済的に一体となっている従物のようなものも含まれる点は,基礎的な部分かと思いますので,説明を省略します。

② 抵当権に対する妨害

次に,②については,どのような場合に抵当権に対する妨害といえるのかを検討する必要があります。

まず参考となるのは,最判平成11年11月24日民集53巻8号1899頁(以下,「平成11年最判」)と,最判平成17年3月10日民集59巻2号356頁(以下,「平成17年最判」)です。

⑴ 平成11年最判

平成11年最判は,三者抵当不動産を不法占有している事案に関して,三者抵当不動産を不法占有することにより,抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ,抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権に基づく妨害排除請求として明渡請求等をすることができるとしています。

平成11年最判は,抵当権が目的物の交換価値を把握する担保物権であるという性質に着目して,かかる交換価値の実現が妨げられるような状態をもって,抵当権に対する妨害状態とみているようです。

⑵ 平成17年最判

他方で,平成17年最判は,抵当権設定者が第三者に対して抵当不動産の占有権原を設定した事案に関して,上記のような交換価値の実現が妨げられるような状態のみならず,占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められる場合に,抵当権に基づく妨害排除請求として明渡請求を認めています。

抵当権設定者自らが占有権原を設定した事案に関する平成17年最判は,不法占有事案に関する平成11年最判と異なり,競売妨害目的をも要求していることが分かります。裏を返せば,競売妨害目的なく,通常の使用収益目的をもってして第三者抵当不動産を賃貸することは,抵当権に対する妨害とはなりません

⑶ 両最判を踏まえた抵当権に対する妨害の考え方

いかなる事実をもって抵当権に対する妨害状態を認めるに足りる請求原因とするのかについては,(私見は持ち合わせているものの)正直私には分からないのですが,要件事実論を無視して考えたときには,以下のようなことがいえると考えられます。

抵当権は,そもそも抵当権者に目的物の占有を移転しない担保物権であって,抵当権設定者は,目的物の使用・収益をすることができるのが原則です。そうすると,設定者による目的物の通常の使用・収益によって,抵当不動産の交換価値が低下するおそれが生じたとしても,これをもって直ちに抵当権に対する妨害ということはできないのでしょう。

他方で,平成11年最判が「抵当不動産の所有者は、抵当権に対する侵害が生じないよう抵当不動産を適切に維持管理することが予定されている」と述べるように,抵当権設定者は,抵当権者に対し,抵当不動産を適切に維持管理する義務を負っています。そうだとすれば,交換価値の実現が妨げられるような状態に加えて,「抵当不動産の適切に維持管理」しているとは評価しがたい状況に至っているのであれば,抵当権に対する妨害状態と評価することができるのでしょう。平成11年最判では,不法占有されているのに占有を排除しようとしなかったことが,平成17年最判では,通常の使用収益目的とは異なり,競売妨害目的をもって占有権原を設定したことが,「抵当不動産の適切に維持管理しているとは評価しがたい状況」ということになります。

このように考えてみると,目的物の通常の使用収益の範囲内の行為であれば,「抵当不動産の適切に維持管理しているとは評価しがたい状況」とまではいえず,抵当権に対する妨害とはならないことになると解することができます。

⑷ 設例との関係

例えば,抵当不動産林業に用いられている土地(山林)であって,生育している立木を伐採して売却・搬出することは,抵当不動産たる山林の通常の使用収益の範囲内の行為と評価することができる場面があるでしょう。そうだとすると,そのような場面においては,そもそも抵当権に基づく妨害排除請求として,伐木の返還請求をすることはできないことになります。

他方で,設例のような石灯籠の売却については,土地の通常の用法と評価できる場合は少ないでしょうから,基本的には通常の使用収益の範囲外の行為となるでしょう。そして,これによって,抵当不動産の交換価値の実現が妨げられるような状態が生じているのであれば,抵当権に対する侵害と評価することができることになります。

 

3 Cからの反論

これに対して,石灯籠の引渡しを受けたCとしては,

  1. 抵当不動産からの搬出によってもはや抵当権の効力は及ばなくなっている(いわば抵当権喪失の主張)
  2. 即時取得(192条)によって抵当権の負担のない石灯籠を取得した
  3. 抵当不動産から搬出された以上は,もはや抵当権設定登記がないのと同様の状態なのだから,抵当権の効力を対抗することができない

等の反論をすることが考えられるでしょう。

① 抵当権喪失の主張

所有権の喪失になぞらえて抵当権喪失と書きましたが,なんとなく切断といった方がしっくりくる場面ではあります。

この主張は,抵当不動産からの搬出後にはもう抵当権の効力は及ばないんだという主張になりますが,この点については,最判昭和57年3月12日民集36巻3号349頁を参照する必要があります。

昭和57年最判は,工場抵当法2条により工場に属する土地建物とともに抵当権の目的とされた動産については,即時取得されない限り,搬出された目的動産を工場に戻すよう請求することができるとしています。ただ,工場抵当法は,5条において,搬出された物について明文で追及効を認めているので,そのような規定に欠ける民法においては別途解釈の必要性があるでしょう。

もっとも,学説上も,民法上においても,搬出後も抵当権の効力が及ぶという考え方が通説になっているかと思います。

そのため,抵当不動産からの搬出後であっても,抵当権の効力が及ぶということ自体は争うことが難しいのでしょうから,通説に従えばCの反論①は認められないことになるでしょう。

② 即時取得による抵当権喪失(切断)

抵当不動産からの搬出後であっても抵当権の効力が及ぶとしても,即時取得によって抵当権の負担のない所有権を取得したという反論はあり得るでしょう。

もっとも,BC間の売買契約締結時に石灯籠が抵当地の上に存していたような場合には,Cは抵当権設定登記を容易に確認することができ,これにより石灯籠に抵当権の効力が及ぶことを認識しえた地位にあるということもできるでしょうから,無過失の推定が覆されることになると考えられます。

他方,搬出後に売買契約を締結した場合には,そもそもどの土地の上にあった石灯籠なのかも分からなくなるのでしょうから,登記の確認も困難であって無過失の推定は覆されない方向に傾きます。

③ 抵当権の効力を対抗できないとの反論

仮に,Cに過失が認められて石灯籠の即時取得が認められないとしても,抵当権の効力を対抗することができないとの反論をすることになると考えられます。これに関して押さえておかなければならないのが,前掲昭和57年最判の射程です。

⑴ 昭和57年最判の射程

昭和57年最判は,抵当権者は,工場抵当法2条に基づき工場に属する土地建物とともに抵当権の目的とされた動産が工場から搬出されたとしても,第三者即時取得するまでは,第三者に対して動産を工場に戻すことを請求することができるとしています。そのため,昭和57年最判の射程が及ぶのであれば,抵当権の効力を対抗し続けることができることになります。

しかし,注意を要するのは,工場抵当法は,3条において,工場に設定する抵当権については,抵当権設定登記申請時に工場に備え付ける機械等の目録(機械器具目録)を提出しなければならないとされ,これが抵当権設定登記の登記事項となっているということです。しかも,工場抵当法5条は,「抵当権ハ第二条ノ規定ニ依リテ其ノ目的タル物カ第三取得者ニ引渡サレタル後ト雖其ノ物ニ付之ヲ行フコトヲ得」と定めて,搬出後も抵当権の効力を対抗し続けることを前提としています。

そのため,民法には工場抵当法5条のような規定がなく,「付加して一体となっている物」についての登記による公示もない以上は,昭和57年最判の射程は,民法上の「付加して一体となっている物」の場合には及ばないと解することになるでしょう。

⑵ 民法上の「付加して一体となっている物」の場合

設例の石灯籠のような,民法上の「付加して一体となっている物」については,いわゆる公示の衣の考え方が有力に唱えられています。

すなわち,抵当権は不動産を目的とする担保物権である以上,抵当権の設定は「不動産に関する物権の得喪及び変更」(177条)に当たり,登記による公示が予定された担保物権ということになります。

そして,「付加して一体となっている物」が抵当不動産上に存在する場合には,抵当不動産の抵当権設定登記という公示の衣に包まれていることになるので,「付加して一体となっている物」についても抵当権の効力を対抗することができると解することになります。

他方で,抵当不動産から搬出された後は,もはや公示の衣に包まれている状態とはいうことができませんから,当該搬出物について「登記」がない状態ということになります。そのため,当該搬出物についての抵当権の効力は,「第三者」(177条)に対抗することができないことになります。裏を返せば,「第三者」に当たらないと解されている背信的悪意者のような者に対しては,搬出後であっても抵当権の効力を対抗することができるということです。

⑶ 設例の場合

仮に,石灯籠の搬出後にBC間で売買契約が締結されており,しかもCによる即時取得が否定された場合には,Cが背信的悪意者に当たるような事情がない限りは,登記の欠缺を主張する正当な利益を有するとして,177条の「第三者」に当たることになるでしょう。

他方で,石灯籠の搬出前にBC間で売買契約が締結されていた場合はどうでしょうか。この場合,既に搬出されている以上は,もはや抵当権の効力を対抗することができないと考えることになるのでしょうか。

この場合,Cは,売買契約締結時には石灯籠の抵当権の効力を対抗された立場にあるわけです。それにもかかわらず,その後に石灯籠を搬出した上で公示の衣から出た以上は抵当権の効力を対抗できないと主張することは,許されるべきではないように思います。このような結論が許されるべきではないと考えるのであれば,Cは,抵当権設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないということになり,「第三者」には当たらないという説明をしていくことになろうかと思います。

賃料不払を理由とする賃貸借契約の解除

賃貸借契約において,賃料債務について不払がある場合であっても,信頼関係が破壊されていないような場合には,賃貸人は当然には賃貸借契約を解除することができないとされています(信頼関係破壊の法理)。これは,賃貸借契約が,当事者間の信頼関係を基礎として成り立つ継続的契約であり,単純な売買契約等とは別個の考慮が必要であるからと説明されているかと思います。

さて,このような信頼関係破壊の法理ですが,平成29年の民法改正の前後を通じて,整理が変わるのではないかと考えています。

 

1 平成29年改正前民法

賃料不払を理由とする賃貸借契約の債務不履行解除をする場合,以下のように整理されてきました。

⑴ 催告解除

当該賃料の不払いについて背信性がない場合には,解除権は発生しない(賃借人側に信頼関係不破壊についての主張立証責任あり)

⑵ 無催告解除

当該賃料の不払いについて賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りる特段の事情がある場合には,解除権が発生する(賃貸人側に信頼関係破壊についての主張立証責任あり)

2 平成29年改正後民法

改正民法では,解除については,催告解除(541条)と無催告解除(542条)とに整理し直されました。以下,両者に分けて見てみます。

⑴ 催告解除(541条)

催告解除については,「その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は,解除権は発生しないとされています(541条ただし書)。 この規定は,「契約……に照らして」軽微かどうかを判断していくので,当然,賃貸借契約の特殊性をも考慮して債務不履行の軽微性を判断していくことになるはずです。

そうすると,賃料の不払いについて,賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には,当該債務不履行が契約に照らして軽微であるとして,解除権が例外的に発生しないことになるのではないかと考えられます。

そのため,改正民法においては,催告解除の場合における信頼関係破壊の問題は,541条ただし書に位置付けて考えることになると思われます。ただし書により主張立証責任が転換されていますので,従前どおり,賃借人側が債務不履行の軽微性=信頼関係不破壊について主張立証する必要があるでしょう。

⑵ 無催告解除(542条)

542条においては,債務の全部の履行不能の場合(1項1号)をはじめ,無催告で解除できる場面が,1号から5号まで列挙されています。

このうち,5号は,「前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき」にも,無催告解除することができると定められています。この5号は,信頼関係破壊の法理の現れでもあると考えられているところです。

賃貸借契約において長期間の賃料不払いが継続した場合,信頼関係が破壊された結果,催告をしてももはや契約目的を達するのに足りる賃料債務の履行がされる見込みがないことが明らかであるといえるでしょうから,5号の要件を満たすことになると考えられます。

そのため,無催告解除の場合の信頼関係破壊の有無は,542条1項5号の問題として位置づけられることになるのでしょう。主張立証責任についても,従来どおり,賃貸人側で信頼関係の破壊について立証すべきことになります。

 

このように,賃料不払を理由とする賃貸借契約の解除をする場合において,信頼関係の破壊が必要であるという結論と信頼関係破壊(不破壊)に係る主張立証責任の所在については変わりがなさそうですが,条文上の要件に明確に位置付けて整理することができるようになったという点において,より議論が明確化されたように思いますね。

改正民法567条2項の意義

1 総論

改正民法567条は,売買の目的物についての危険の移転について規定しています。

1項は,特定された目的物の引渡し後に,当事者双方の責めに帰することができない事由により滅失・損傷したときは,買主の履行追完請求,代金減額請求,損害賠償請求及び解除の主張は認めず,買主の代金支払債務の履行拒絶も認められないとする規定です。

2項は,引渡債権者の受領遅滞後に当事者双方の責めに帰することができない事由により目的物が滅失・損傷したときも,債権者(買主)の履行追完請求,代金減額請求,損害賠償請求及び解除の主張を否定するとともに,買主の代金支払債務の履行拒絶権を否定するという規定です。

今回は,567条2項の意義について考えてみたいと思います。

 

2 受領遅滞と履行不能

債権者が受領遅滞に陥った場合において,当事者双方の責めに帰することができない事由により債務の履行が不能となったときは,その履行不能は,債権者の帰責性によるものとみなされます(413条の2第2項)。

そして,567条2項は,受領遅滞後に当事者双方の責めに帰することができない事由により目的物が滅失・損傷した場合の規定ですが,この場合には買主の帰責性による不能であると擬制される(413条の2第2項)のですから,「当事者双方の責めに帰することができない事由によって」(567条2項)と規定するのには少し違和感があります(413条の2第2項により,買主の帰責性に基づく履行不能とみなされているはずですので)。しかし,現に上記の文言で567条2項が規定されてしまっている以上は,413条の2第2項とは一応は独立した規定ということになるのでしょう。

 

3 567条2項の存在意義

567条2項の適用場面は,413条の2第2項の適用もできる場面でもあるでしょうから,次のようなことが言えます。

  • 413条の2第2項により目的物の損傷等は買主の帰責性と擬制される
  • その結果,買主は,解除権の行使はできない(543条)
  • 同様に,債務不履行に基づく損害賠償請求権の行使もできない(415条1項ただし書)
  • さらに,買主は,反対給付である代金支払債務の履行を拒絶することもできない(536条2項前段)
  • 目的物の損傷等により契約不適合が生じたといえるものの,追完請求権の行使は否定され(562条2項),代金減額請求権の行使も否定される(563条3項)

そうすると,567条2項から導かれる効果は,413条の2第2項を介した他の条文で解決できてしまうので,567条2項の存在意義はないことになりそうです…。

 

あえて567条2項に存在意義を持たせるのであれば,次のよう説明をすることになるのでしょう。

買主の追完請求権(562条)や代金減額請求権(563条)は,「引き渡された目的物」(562条1項)についての規定であることから,引渡し前の目的物に関する損傷等について規定しているわけではありません

そうすると,目的物の引渡し前の段階においても,567条2項によって買主の追完請求権や代金減額請求権の行使を封じることができることになります。

このように,567条2項は,目的物の引渡し前の段階の追完請求・代金減額請求の否定という効果を導くことができるという点にのみ,存在意義があることになりそうです。

 

4 独り言

ここからは独り言なのですが,上記のように567条2項に意味を持たせるとなると,わざわざこの条文を設けないと目的物引渡し前の追完請求・代金減額請求を否定できないということになり,目的物の引渡し前であっても追完請求権や代金減額請求権が認められるのが前提となっているとも考えられます。

そうだとすれば,562条1項が「引き渡された目的物」について追完請求権を規定し,563条もこれを受けて(「前条第1項本文に規定する場合において」)代金減額請求権を規定しているものの,結局は562条1項の「引き渡された」という文言は空文化するのではないかとも思えてしまいますね・・・。

 

【参考文献】

潮見佳男『法律学の森 新債権総論Ⅱ』63頁(信山社2018

民法94条2項の類推適用

少し気になったので,久々の更新です・・・。

94条2項類推適用について論じる際に,多くの受験生が①虚偽の外観,②真の権利者の帰責性,③第三者の信頼という規範を立てるかと思います。

その際に,③第三者の信頼要件について,「意思外形非対応型の場合には,本人の帰責性の程度が小さいから,110条も類推し,善意・無過失を要求すべきである」などと書く答案が多く見受けられた記憶があります。

 

しかし,そもそも論として,94条2項単体での類推適用と94条2項・110条の類推適用とは別の話ですので,切り分けて考える必要があります。

 

94条2項類推の場合,真の権利者の帰責性の程度としては,

  • 真の権利者自らが虚偽の外観を作出したこと
  • 他者の作出した虚偽の外観をあえて放置するなどして承認したこと

が必要となります。

ここで注意を要するのは,これらの場合と同視し得るほどの重大な帰責性が認められるに過ぎない場合は,94条2項単体での類推適用をする際の帰責性の程度としては不十分だということです。

最判平成18年2月23日民集60巻2号546頁は,

「Aが本件不動産の登記済証,上告人の印鑑登録証明書及び上告人を申請者とする登記申請書を用いて本件登記手続をすることができたのは,上記のような上告人の余りにも不注意な行為によるものであり,Aによって虚偽の外観(不実の登記)が作出されたことについての上告人の帰責性の程度は,自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきである。そして,前記確定事実によれば,被上告人は,Aが所有者であるとの外観を信じ,また,そのように信ずることについて過失がなかったというのであるから,民法94条2項,110条の類推適用により,上告人は,Aが本件不動産の所有権を取得していないことを被上告人に対し主張することができないものと解するのが相当である。」

と述べており,あくまでも94条2項と110条の併用による類推適用を前提とした判断の中で,前二者の場合と「同視し得るほど重い」帰責性について言及しています。

 

94条2項は,「前項の規定による意思表示の無効」を第三者に対抗できないと規定しており,「相手方と通じてした虚偽の意思表示」の存在を前提としています。

そうすると,同条項を類推適用する場合には,真の権利者自ら虚偽の意思表示をした場合と同等の場合でなければならないはずで,虚偽の外観に真の権利者の意思が現れていること(虚偽の外観が真の権利者の意思に基づいていること)が必要となります。

そして,虚偽の外観に真の権利者の意思が現れているのはどのような場合かというと,いわゆる意思外形対応型として整理される「自ら外観の作出に積極的に関与した場合」「これを知りながらあえて放置した場合(事後的な承認を与えた場合)」ということになります。これらと「同視し得るほどの重大な帰責性」があるに過ぎない場合には,真の権利者の意思が虚偽の外観に現れているとは言い難く,94条2項単体での類推適用はできないことになります。

 

意思外形非対応型の事案について受験生が答案として書いていくなら,

  1. まずは94条2項単体での類推適用を試みて,これを否定した上で,
  2. 94条2項のみならず,110条との構造の類似性(権限逸脱行為の介在等)をも指摘し,
  3. 両者併用による類推適用により,善意無過失の第三者が保護され得ることを論じていく

ことになるでしょう。

その際の帰責性の程度としては,(少なくともこれまでの判例に現れた事案からすれば)⑴自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重い帰責性や,⑵第三者の信頼した虚偽の外観の原因となった偽りの外形が本人の意思に基づいている場合であることが必要とされることになります。

選択科目の選択について

選択科目について結構悩まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。いくつか私の関与してきた法分野について。私の独断と偏見が混ざっていますがつらつらと書き連ねてまいりますので,何らかの参考にしていただけたら幸いです。

なお,私は倒産法選択ですが,倒産法のことはとうの昔に忘れています。

 

① 国際私法

難 易 度:普通

分  量:少ない

基 本 書:松岡博『国際関係私法入門』(第3版,有斐閣

演 習 書:『演習国際私法CASE30』(有斐閣

受験者数:やや多い

お勧め度:★★★

【コメント】

家族法分野と財産法分野からの出題。家族法分野は,日本民法家族法の条文まで引かされることも多い。

論述の手順が概ね決まっていて,考え方さえ理解できれば非常に楽しい

・主に,①準拠法選択(事案の解決にどの国の法を用いるかの判断)②国際裁判管轄(日本の裁判所に管轄が認められるか,ないし外国裁判所の裁判が日本で効力を有するか)が主軸。国際取引法分野について問われることもある(国際物品売買に関する国際連合条約,インコタームズ,モントリオール条約など)

・メインとして引くことになるのは,法の適用に関する通則法と,民事訴訟法のうち国際裁判管轄の部分(3条の2~)や118条など

・条文数が他科目に比べて圧倒的に少ないのも特徴

・普通に実務をやっていても国際私法が関係してくることがあるので,何気に役立つ(企業法務でも一般民事でも)

・近年は,予備試験合格者による選択が多くて受験者のレベルが上がってきているためか,難化傾向にある気はする。ただ,考え方がしっかりと身についていれば,知らない問題が出てきても周りに差をつけることができて上位層に食い込むこともできる科目。

② 経済法

難易度:やや難

分量:少ない

基本書:入門書として『ベーシック経済法』(有斐閣

演習書:『論点解析 経済法』(商事法務)

受験者数:やや多い

お勧め度:★★☆

【コメント】

独禁法からの出題がほとんどのはず。

・国際私法と並んで,あるいは国際私法以上に,分量が少ない。考え方に特殊な部分が多いので,苦手な人は本当に苦手。ただ,慣れてしまえばなんてことはない。刑法っぽい思考枠組みかなという印象はあります。

・条文数も少なく,負担は少ない。

・真偽のほどは分からないが,特捜に行きたい人は経済法選択だと良いらしい。

・演習書や予備校講座は充実しておらず,勉強がしにくい部分はあるかも。ただし,上掲の演習書も出されており,従来に比べれば勉強しやすくなったのでは。

・弁護士実務の上でも独禁法関係の事項の検討を要求されることは多々ある。

③ 租税法

難 易 度:普通

分  量:普通

基 本 書:入門→金子宏『租税入門』(有斐閣新書)

本格的な学習→佐藤英明『スタンダード所得税法』,『スタンダード法人税法』(弘文堂)

演 習 書:『租税法演習ノート』(弘文堂)

受験者数:普通

お勧め度:★★☆

【コメント】

・主に所得税法から出題され,法人税法国税通則法の理解を問う設問もあり。判例の正確な理解があれば十分に合格点に到達する科目。

・会計士の先生は,公認会計士試験で租税法を使うこともあり,選択される方が多いイメージ。

・最初はとっつきにくいかもしれないが,考え方に慣れれば楽しくて仕方がないはず。

・難点は,普段用いるであろう六法に所得税法法人税法国税通則法が載っていないということ。別途『租税判例六法』等を購入する必要がある。

・自分の確定申告のときには当然役立つし,税務が関係してくる事件を扱うときにもついでにアドバイスできるのは良い。

・法改正が多くて追いかけるのはつらい(試験との関係ではそんなに法改正に影響することはほとんどない)。特に,税務を専門にやろうと思ったら,毎年法改正をしっかりと追いかけないと,莫大な額の損失をクライアントに与えてしまうこともあり得るところです。専門にするならそれなりの気概が必要。

・私個人は税務案件の意見書を求められることもあり,法理論としてはものすごく興味深い分野。私は一番好きです。

④ 知的財産法

難 易 度:やや難

分  量:多い

基 本 書:特許法高林龍『標準特許法』(有斐閣

 著作権法→『著作権法入門』(有斐閣

※高林先生の本は人気ですし良書なのでしょうが,個人的にはもっと整理して分かりやすく書いて欲しいという気持ちがありました。理論的な整理が伝わりにくい印象です。

※リーガルクエストもありますが,読んだことはないです。

※個人的には特許法に関しては中山信弘先生の『特許法』(弘文堂)が好きですが,受験生には分厚いかも

茶園成樹先生の『特許法』『著作権法』(いずれも有斐閣)もあります(私は読んだことがないです)。他の知財分野の本では茶園先生の本が非常に分かりやすく,分量も多くないので,おそらく特許法著作権法についても期待を裏切らないはず。

演 習 書:『知的財産法演習ノート』(弘文堂),『論点解析知的財産法』(商事法務)

※論点解析は,当てはめの一応の方向性が示されていたり,別々の論点であると認識されがちな複数の問題点をより高次の考え方から統一的に説明することが試みられている点は非常に有用。ただし,考え方に独特な部分もあるため,好みは分かれ得る。

受験者数:やや多い

お勧め度:★☆☆

【コメント】

特許法(第1問)著作権法(第2問)からの出題。分量がかなり多い。

特許法は司法試験との関係における法律論としてはそこまで難しくはない(逆に,実務に出たら,文系は発狂するレベル。私だけかもしれませんけど。)。他方で,著作権法は,最高裁レベルの判断が必ずしも多くない分野であって,下級審レベルで見解が割れている部分も少なからずあること,さらには近年の司法試験の問題が要求するレベル(≠合格レベル)が相当に高く,4頁で纏め上げるというのはなかなかに困難

・これまで複数の法改正がなされているので,過去問が使いにくい部分がある。

知財高裁判例からの出題があるが,司法試験の出題後に最高裁で当該知財高裁の判断が破棄されることもあって,過去問が使いにくい部分がある

かなりの量の下級審裁判例(百選に載っていないものも含む)があるが,それらを踏まえて論述することが求められることも多い

・演習書や予備校の講義も必ずしも充実しているとは言えない。

弁理士資格を持っている人や,将来どうしても知財業務に携わりたいという人向けという印象。ただし,著作権分野の案件はどこに行っても比較的多いはずで,文系でも当然に対応できる分野。また,司法試験科目ではないものの,商標分野の案件にも多く直面するはずなので,知財に関する一応の知見は持っておいても損はないはず。実務に出れば,条約レベルの話にも対応できるようにしておかなければならない場合もある。

⑤ 倒産法

難 易 度:やや難

分  量:やや多い

基 本 書:藤田広美『破産・再生』(弘文堂),松下淳一『民事再生法入門』(有斐閣

演 習 書:『倒産法演習ノート-倒産法を楽しむ22問』(弘文堂)

受験者数:多い

お勧め度:★★★

【コメント】

破産法(第1問)民事再生法(第2問)からの出題。民事系,特に民法のうち担保物権分野あたりが得意であれば,倒産法も得意になれる気がする。手続法としての側面が大きいので,民事訴訟法の理解も不可欠。

民事再生法の理解は破産法の理解を土台に組み立てていくので,そこまで分量が多いわけではない

・企業法務に携わるようになれば,倒産リスクの回避という観点から各種スキームを検討したりするので解釈論も必須でしょうが,街弁的に申立業務や管財業務をする場合には,解釈論まで要求されることは少ないかも。いずれにせよ,体系的に倒産法について理解できていることは,どこかしらで大きな強みになるし,試験との関係でいけば倒産法のべ強が民事系の理解に結びつくことも。

・司法試験の問題は一時期難化傾向にありましたが,ここ2年くらいはそこまで難しい問題という印象ではない気がする。

 

⑥ 労働法

言わずもがな,受験者の多くが選択する科目。しかし,私は司法試験の労働法は詳しくないのです…。BEXAの加藤喬先生やアガルートの渡辺先生の講義を取っていればきっと大丈夫です。笑

⑦ 環境法

詳しくないのです…。

⑧ 国際公法

詳しくないのです……。